2014年11月3日月曜日

美女と野獣



ガンズ監督の『美女と野獣』を観た。

『アデル、ブルーは熱い色』で一躍有名となったレア・セドゥがベルを演じる、あまりにも有名なおとぎ話『美女と野獣』。それだけでも期待は高まるのだけど、ビジュアルの美しさやレアのドレスへのこだわりなどは日本で公開される前から評判で、私は今日をとても楽しみにしていた。

全体的な感想としては、ストーリーは誰もが知るところなので意外性などはないけれどその分安心して観ることができ、レアとバラの美しさに息を飲む映画だと思う。ハッピーエンドだと分かっているのはやはり良い(いずれここに書くつもりだが、私が一番最近観た映画が園子温監督の『ヒミズ』だったので、より一層強く感じた)。ストレートに、私利私欲に塗れることの醜さと愛することの素晴らしさとを伝えている。


(これより先は本編のネタバレを含みますので、これからご覧になる方はご注意)


まず、ベルの父親がひと気のない野獣の城で勝手に食事を貪るシーン、『千と千尋』を想起する人は多いのではないかと思う。息子が勝手に作った借金取りに追われて吹雪の山中を必死で逃げたのだから、温かい食事くらい与えられても良いと思うのだが、あまりにもその食べ方の汚さが強調されていた。大人しく座って目の前の皿に盛られているものを食べれば良いものを、骨付きチキンを雑に貪り、次々に別の皿に手を伸ばしては食事を床に落とし、ワインをグラスに綺麗に注ぐこともできずにこぼす、これまでの彼への同情をまるで吹き飛ばしてしまうような罪の作り方だ。

それから、城を守っている石の巨人たちを見ると『ラピュタ』の巨神兵を思い出さずにはいられなかった。草木と一体化して眠っているところやその目覚め方、主人を失って崩れていく様子など、巨神兵のそれのようだった。(まあ、この時代に○○が△△のようだったと言うこと自体がナンセンスかもしれない。)




『美女と野獣』を題材にする以上、ストーリーにはあまりコメントしないけれど、レアを起用した上でこの青の使い方はずるいのではないかと思ってしまう。いや、むしろファンサービスというべきか。
映画の中でベルはオフホワイト、深い緑、ターコイズブルー、そして鮮やかな赤という四着のドレスを着替える。その中でやはり目立つのは、ダンスをした野獣がベルに心を寄せ、ベルが氷の上をドレスで駆ける時に着ているブルーのドレスと、最後に袖を通すことになる赤いドレスだ。彼女を一躍有名にしたのは言うまでもなく『アデル、ブルーは熱い色』なのだから、少なくとも今の時点でレアと青は切っても切れない関係にあるだろう。あの作品の中で髪を青く染めていたレアは本当にこの色がよく似合うし、青はレアの不思議な魅力を最もよく引き出す色だと思う。

もったいないと思ったのは、赤いバラを上手く使い切れていなかったところだ。ベルの父親が愛する娘のために「命の代償」として持ち帰った印象的なバラはそれっきり出てこない。野獣が湖で溺れたベルをベッドに寝かせ、その手に同じ品種のバラを持たせるも、バラは特に大きな役割を果たすわけでもなく、ベルが起き上がってからどうなったのかもよく分からない。せっかく出すのだからなにか深い意味があったり、本編を通じて存在し続けても良いと思ったのだけど。ラストに登場する子どもに恵まれた二人の家に、同じバラがまだ咲き続けているとかなら、ロマンチックだしストーリーとしても良いのではないかな。

余談だが、レアは(おそらく役作り云々ではなく)片方の口角を上げにやっとした目でいたずらっぽく笑うときがあって、私はそれがとても好きだ。『美女と野獣』では7時の夕食の時に、野獣を煽るベルがその顔をしていた。吸い込まれてしまいそうな瞳に、いつまでも子どものようなあどけなさが残るレアの魅力が端的に分かる微笑みなのではないかと思う。